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【マッチレビュー】2025高校ラグビー花園準決勝:東福岡高校対京都成章高校

「緻密な戦略性と、強烈な個々の力」

みなさんこんにちは
昨年12月から始まった高校ラグビーの全国大会、「花園」も準決勝まで終わり、残すは決勝を残すのみとなりました
今回は、準決勝2試合のうち、東福岡高校対京都成章高校の試合について、振り返っていきたいと思います

東福岡のラグビー

東福岡のラグビーは、簡単にまとめてしまうと「シンプルな構造と個々のスキル」によって動くラグビーであるということができます。複雑な動きやサインは少なく、一つ一つの接点やシーンごとに相手との小さな勝負が起きるといったものです

基本的なポッドの構造としては、エッジからポッドを1-4-2-1の比率で配置した基本的な構造に、中央の4人ポッドから浮いたFWの選手が次のポッドへ参加することで、一つ一つのポッドの人数を担保するような形をとっています

この4人ポッドの形が特殊で、一般的な三角形のポッドに1人プラスされるような形のポッドになっています。形を表現するのであれば、まるで「へ」というひらがなの形をしています。

この4人ポッドの活用の形としては、基本的に突出した中央の1人に対してSHからボールが供給されます。次いでその選手から外方向にティップオンを送っていくような形です。ティップオンのオプションは一回だけではなく、二回連続で行うことで相手ポッドディフェンスの端の選手までしっかりコミットしながら外方向にチャンスを生み出すような形をとっています

一回のティップオンのみではずらしきれないシーンに対して、二回めのティップオンやキャリーした後のオフロードパスを使うことでゲインしやすい構造になっていました

ただ、ポッドの活用の部分で気になった部分としては、9シェイプや10シェイプがラックに対してかなり深い位置関係を作っており、京都成章の鋭く出足のいいタックルに捕まってしまうことが多かったという点です。下げるパスが多い分京都成章のディフェンスラインのプレッシャーでかなり下げられてしまっていました。

また、9シェイプから裏のラインに下げるようなパス、スイベルパスを使うような場面でもポッドの選手がどちらかというとスタンディングの状態でパスを放るような形をとっており、スライドディフェンスも丁寧に使ってくる京都成章のディフェンスに対して圧力を受けていました。

これらのポッド動きから、後方から外方向にかけて存在するアタックラインは基本的にはシンプルで、ポッドの裏の層がそのままアタックラインになるような形です。オプションとしてはカットインやカットアウトといった個々のレベルでの対応にとどまっており、シングルラインを崩すような形のものはなかったように見えました。

この過程の中で数的優位を動的に作るような形もそこまで多くはありません。9シェイプを繰り返し中盤で使うようなフローで相手を寄せようとしていましたが、なかなか相手が寄り切ったようなフェイズは少なく、苦戦しながらのアタックが続いていました。

そんなアタックの中では個々のランニングスキルや接点の強さといった要素は東福岡の強みとなっており、個人的にいい動きを見せていたように感じた選手としては、14番の平尾龍太選手や、8番の須藤蒋一選手がアタックの中でキーになっていました。

一方で、個人の勝負に依存しているような様相もあり、システムとして相手を崩すことができたようなシーンがそう多くはありませんでした。結果として、相手を崩す動きに再現性がなく、崩すことができても単発のものになってしまっていました。

京都成章のラグビー

京都成章のラグビーを言語化するのであれば、「高度な戦術によって相手を一発で崩すラグビー」ということができます。細かなものからビッグプレーまで、さまざまな戦術的要素を用いて相手を崩そうとしている様子が見られました。

特に強さを発揮したのがセットプレーからの一発でトライまで持ち込むことができるサインプレーです。表と裏の動きを工夫したさまざまなバリエーションのあるアタックを作り上げており、東福岡の構造をしっかりと分析した上で、精度良くギャップを狙うことができていました。

構造の中で有効活用されていたのがスイングという一連の動きです。スイングというのは、ラックを挟んで逆方向に振り子のように動きながらアタックラインに参加する動きで、京都成章は10番の岡元聡志が主体となって左右に移動しながらアタックラインを作っていました。

スイングのメリットとしては、後出しでアタックラインの人数を切り替えることができるため、ディフェンスラインからするとノミネートがずれてしまったり、数的に不利な状態になってしまいます。京都成章はこのずれに対して一発でブレイクをできるような準備を整えてきており、何度も構造的にブレイクすることでトライを生み出していました。

基本的な構造、というとうまくまとめられなくなってしまうほど、京都成章は多くのポッド構造を使っていました。簡単にあげるだけでも、「2-3-2」、「3-4-1」、「1-3-3-1」など、同一ポゼッションの中でも選手の配置を流動的に入れ替えることでポッド内の人数を調整していました。

最も特徴的だったのは、簡単に言えば5人から6人の人数をかけたポッドで、SHの佐藤啓護選手の長いパス距離を活かしてラックから遠い位置に立つ選手にパスを出す形です。そのパスを受けた選手はそこからスイベルパスで裏に立つプレイメーカーの選手にパスを出すことで、外方向の数的優位を効果的に使っていました。

その構造の中でいい働きを見せていたのが8番の南川祐樹選手です。いい体格をしていて走力があり、多くに人数をかけたポッドの次の構造として、エッジでのラインブレイカーとして作家していました。構造の過程の中で外では3対2くらいの数的優位が生まれており、少しでもスペースがあれば、南川選手がしっかりと前に出ることができていました。

特徴的な戦略としては、早い段階からキックを主体にカオスな状況を作っていたことも挙げられます。Bゾーンのようなチャンスが生まれやすい場面であっても、そこまで無理することなく、SHの佐藤選手からボックスキックを蹴り上げて再獲得を狙っていました。

再獲得の頻度としてはそこまで多くはなかったですが、京都成章がキックチェイスのディフェンスの精度が非常に高く、相手をセミストラクチャーの状況に追い込むことができていました。セミストラクチャーの状態であれば京都成章の質の高いディフェンスラインを作ることができるので、東福岡の個々の力を抑え込むことに成功していました。

これまで述べてきたように京都成章のディフェンススキルは非常に高く、高校生らしい低いタックルと、質の高いディフェンスラインの整備によって東福岡のアタックを封じ込めていました。1対1の場面でしっかり低く入ることができているので、相手を素早くテイクダウンすることができ、接点に強いFWの選手に時わりと前に出られることも減らすことができていました。

スタッツを振り返る

それでは順番にスタッツを振り返っていきましょう。

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東福岡のスタッツを確認していきます。

ポゼッションを見ると、試合通じて19回という数値を示していますトップカテゴリーの40分よりも1試合の時間が短いということを差し引いても、このポゼッションの回数は少ないということができるかと思います。

このような回数になった要因として、わかりやすい要素として「ポゼッション一回あたりの平均継続時間が長い」ということが挙げられます。京都成章の数値も大きかったですが、東福岡は1つのポゼッションあたり44.9秒と、大学やリーグワンの倍近い数値となっています。キックの回数が少ないことで一つ一つのポゼッションが長くなり、全体としてポゼッションの回数が減った、ということが考えられます。

キャリーに対するパスの比率は1.88とかなりパス回数が多い比率を示しています。このことから、東福岡はポッドではなくアタックラインを多く使うようなアタック傾向を示していることがわかります。単に9シェイプや10シェイプを使うようなアタックをしていれば、この数値は1.3~1.5あたりの数値に収束するからです。

ラインブレイクに対するキャリーの比率は22と、極めて効率が悪いということができます。単純計算で22フェイズに一度のみラインブレイクが起きているということなので、なかなか相手のディフェンスラインを崩すことができていなかったことがわかります。ただ、ゴール目前まで迫ることさえできればトライに繋げることができていたので、いかにゴール前まで入るか、というフローの重要性がわかります。

また、ターンオーバーの回数が京都成章よりもはるかに多くなってしまったことの影響も大きかったかもしれません。京都成章が大きなリードを奪ったことで東福岡はリスクを抱えたままアタックを続けなければいけませんでした。その結果としてミスが増え、さらに京都成章にボールを保持されるという悪循環に陥っていました。

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次に京都成章のデータについても振り返っていきましょう。

京都成章のポゼッション回数は25回と、東福岡よりも多い回数となりました。しかし、一回のポゼッションあたりの継続時間が東福岡よりも10秒ほど短かったため、全体的なポゼッション比率に関してはほぼ同程度という結果になりました。

何度ポゼッションを保持するごとに敵陣深くに入っているかという指標を見ると、東福岡と京都成章はほぼ同程度のスタッツを示しています。しかし、その侵入効率の中で京都成章は6トライ、東福岡は3トライという結果になりました。京都成章は敵陣不覚への侵入回数自体が7回であるにも関わらず、6回のトライという非常に高い効率でスコアをしていました。

パスに対するキャリーの比率は1.43と、一般的な水準に落ち着いています。逆に言えば、高校生であるにも関わらず、大人のようなラグビーをしているということができます。まるでトップカテゴリーの選手のような、戦略的にラン・パス・キックを組み合わせたラグビーを見せました。

また、キックに対するキャリーの比率は4.63とかなりキック優位のデータとなっています。リーグワンの平均よりも少ない数値となっており、こちらに関しても冷静にキックを用いた戦略を用いていたということができます。

ラインアウトもスクラムも安定しており、セットピースからのサインプレーが大きな影響をもたらしたこの試合に関しては、セットピースの安定は最低条件でもありました。

まとめ

高校生とは思えない戦略的ラグビーを見せた京都成章と、個々の力をうまく使えるような工夫をしてきていた東福岡の試合は、緻密なサインプレーで何度もブレイクした京都成章が上回る結果となりました。

残すは決勝のみ、京都成章と桐蔭学園の試合となります。しっかりと見届けていきましょう

それではまた!

TAKASHI IMAMOTO
TAKASHI IMAMOTO

1994年生まれ、東京出身。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、Webマガジン「Just Rugby」にて分析記事を連載中。