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【マッチレビュー】2025大学ラグビー関東対抗戦:早稲田大学対慶應義塾大学

伝統の早慶戦、早大の超速ブレイクダウンが勝利を呼んだ!慶應義塾との緻密な戦術戦

2025年11月23日、ラグビー関東大学対抗戦のクライマックスを飾る伝統の一戦、第102回早慶戦が、熱気溢れる秩父宮ラグビー場にて開催されました。会場には1万5164人の観衆が集結し、両校の意地とプライドが激しくぶつかり合う舞台を見守りました。結果は、対抗戦首位を走る早稲田大学が慶應義塾大学を49-21というスコアで下し、勝ち点を「32」まで積み上げ、首位を確固たるものとする圧巻の勝利を収めました。

しかし、このスコアの裏側には、両校が練り上げた戦術システムが高度に交錯する、戦術的な深みのある攻防が展開されていました。早稲田の「1421」ポッドに代表される流動的かつ多角的なアタックと、慶應の「1331」を起点とした継続アタックの応酬は、現代ラグビーのトレンドを象徴するものでした。本記事では、この激闘を詳細な戦況分析、アタック戦略、ディフェンス戦術、そしてデータ分析の各側面から解説します。

試合展開:互いに譲らないポゼッションラグビーと早大の爆発力

試合はキックオフ直後から、早稲田が準備してきた多様なアタックオプションを惜しみなく披露し、主導権を握る展開となりました。

早稲田は、敵陣に入るとすぐにFWが縦に突き刺さる「3311」のポッドを起点に慶應ディフェンスを崩しにかかります。センターを中心とした縦への強いアタックと、それをサポートする9番を起点としたボールムーブメントが機能し、瞬く間に優位な状況を作りました。そして、早々にスクラムでのペナルティーを獲得すると、このチャンスを逃さずラインアウトモールを押し込み、HO清水健伸選手がこの日最初のトライを奪います。

清水選手は、このモールアタックの猛威を体現するかのように、前半だけで立て続けにトライを重ね、最終的にこの日4トライという驚異的な決定力を発揮し、勝利の立役者となりました。

早稲田は中盤左ラインアウトからの右オープン攻撃では、日本代表のFB矢崎由高選手が相手ディフェンスラインを切り裂くダイナミックなランで大幅ゲイン。この流れるようなアタックから、NO8粟飯原謙選手CTB福島秀法選手との巧みなパス交換を経て、粟飯原選手がトライを奪うなど、キープレーヤーが躍動し、早稲田の攻撃に勢いをつけました。

対する慶應義塾も、ただ守るだけでなく、戦術的な深さを見せます。ターンオーバーから数フェーズ動かした後、10番小林祐貴選手からのハイパントキックで陣地を挽回し、再獲得する場面もありました。しかし、モールからアタックを仕掛けるも、サポートの遅れから早稲田のジャッカルを許すなど、再三トライチャンスを逃しました。このブレイクダウンの攻防こそが、試合の主導権を握る上で大きな差となりました。

試合中盤、早稲田の13番福島選手は、大学トップクラスと評されるオフロードパスで慶應ディフェンスを切り裂きます。右サイドでの広いレンジでのギャップを突いたオフロード、そして直後のフェーズでの左サイドでのアシストは、福島選手の突出した突破力と視野の広さを証明しました。

一方、慶應は9番橋本弾介選手のロングパスから、内側のディフェンスを切り崩す効果的なアタックを展開。橋本選手と12番今野椋平選手が接近して相手を引きつけ、ギャップを創出するサインプレーを繰り返し成功させ、同じ形からトライを奪うなど、サインプレーの精度と遂行力の高さを見せつけました。

早稲田は前半終了間際にも、ラインアウトからのサインプレーで清水選手がこの日3本目となるトライを奪い、35-7で前半を折り返しました。後半も主導権の奪い合いは続きます。慶應も意地を見せ、ラインアウトモールからワンチャンスで追加点を挙げるなど奮闘しますが、早稲田の猛攻を最後まで止めることはできず。最終的に早稲田が2トライを追加し、49-21でノーサイドを迎えました。


早稲田のアタック:多角的なポッドシステムと超速ブレイクダウン

早稲田のアタックは、複数のポッドを効果的に使い分ける多層的なシェイプによって、慶應義塾ディフェンスを攻略しました。
早稲田のアタック戦略の中核を担ったのが、流動的な「1421」のポッドシステムでした。

  • 司令塔の移動とアタックの流動化: 試合中盤、早稲田が中盤から展開した際には、FB矢崎選手がサイドライン際からミドルエリアへ移動してくるという戦術的な動きが見られました。この動きにより、アタックの起点が流動的になり、ディフェンスは早稲田の攻撃の「狙い」を掴むことが極めて困難になりました。
  • ミドル4人ポッドの優位性: 試合を通じて、このポッドを使い続け、特に4枚並ぶFWが効果的に機能していました。ラックから2番目あるいは3番目の選手が1stレシーバーになるオプションをもち、さらに両サイドにティップパスを繰り出すこと、あるいはスイベルパスでBKへ供給するなど、複数オプションを高精度で持ち続けました。その結果、慶應ディフェンスはキャリアを絞り切れない状態に陥りました。この構造的な優位性が、継続的なゲインを可能にしました。また、ショートサイドのシーケンスを巧みに使いながらゲインを重ねるなど、エリアに応じたポッドの運用が完璧でした。
  • 超速のブレイクダウン: このポッドアタックを成功させた最大の要因は、ブレイクダウンのリサイクルの速さです。超速でボールを捌くことで、慶應ディフェンスが整うわずかな時間すら与えず、常にアタック側の優位性を維持し続けました。

チームの戦術的自由度と個の突出

  • 服部選手の戦術的自由度: SO服部亮太選手は、FWの裏側に位置したり、逆サイドから移動してくるためディフェンスとしては掴みづらい展開を作り出しました。ブラインドサイドでのシーケンスでは、WTB田中健想選手がファーストレシーバーに入り、FWの縦ランに対して裏のBKへパスするシーンや、ラックサイドをSHから受けて攻撃するシーンなどその戦術的な自由度を見せてくれました。
  • 後半の戦術調整: 後半、早稲田は明らかに意図して10シェイプを増やしましたが、序盤はエッジでスペースが狭くなりあまり有効なアタックではなかったという反省点もあげられます。しかし、すぐに折り返しの9シェイプのティップパスで大きくブレイクするなど、修正能力の高さも見せつけました。
  • 福島選手の突破力: 13番福島選手の個人能力は群を抜いており、広いレンジでのギャップを突いたオフロードパスや、「行き詰まったところでも前へ持っていける力」を発揮し、早稲田アタックの大きな推進力となりました。

慶應義塾のアタック:継続重視のポッドとフルバックの役割

慶應義塾は、早稲田の高速アタックに対して、フィジカルを前面に出した継続重視のポッドシステムと、粘り強いディフェンスで対抗しました。
慶應のアタックは、一発のゲインよりも継続性ポゼッションを重視する設計となっていました。

  • 細かいポッドでの継続: 慶應の基本的なアタックは、「ポッドを細かく当てながら継続する」印象を受けました。これにより、ラックサイドのフィジカル勝負で優位に立ち、ディフェンスを徐々に消耗させることを狙いました。
  • 13211の形での展開: およそ4〜5フェーズを重ねた段階で、「13211の形から10シェイプ起点に外まで運ぶ形」が見られました。これは、FWで中央を固めた後、バックスとのバックドアオプションを組み合わせてワイドに展開し、フィニッシュを狙うという、緻密に練られたシェイプです。
  • FB田村選手の柔軟な役割: FB田村優太郎選手は、前半は比較的内側でコントロールするタイプとして機能しましたが、後半には「外側でゲインを切ったり、外側へ運ぶ役割も担っていました。状況に応じて役割を柔軟に変化させました。

ただ、試合を通じてブレイクダウンが安定せず、出したい場面でボールに絡まれてしまい、ターンオーバーされてしまったことは今後の課題と言えるでしょう。

慶應義塾のディフェンス:バックスの粘りとブレイクダウンの圧力

慶應義塾のディフェンスは、個々のタックル精度粘り強さが際立っていました。

  • タックル精度: 慶應義塾のディフェンスは、タックル精度とテイクダウンを取り切る部分は申し分ないレベルであり、特にCTB安西良太郎選手(1年)がモストインプレッシブプレーヤー(MIP)に選出されるなど、タックルの強度と粘りは際立っていました。早稲田の猛攻に対しても、「完全なブレイクは許さず粘りでタックルからミスを誘う」我慢強さがありました。
  • ブレイクダウンの課題: 一方で、早稲田の高速ブレイクダウンに対しては、プレッシャーをうまくかけられず、テンポを遅らせることができなかった。という課題を残しました。このブレイクダウンでのプレッシャーが、早稲田に連続アタックを許し、失点に繋がる大きな要因となりました。

データから見る:バックライン重視のアタックとセットピースの安定 

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この早慶戦は、両チームが明確な戦術的特徴と高い実行力を示した一戦であり、スコア以外のデータからもその傾向が読み取れます。

1. バックラインへの供給と外側キャリー

両チームの最も大きな特徴は、現代ラグビーで主流となりつつあるバックラインへのパス供給の多さです。9シェイプが中心のチームも多い中で、10シェイプとバックラインへのパスが多く、外側でのキャリーが多いという点が際立っていました。これは、FWのポッドにボールを当てるだけでなく、より多くのバックスプレーヤーを絡ませ、ディフェンスのワイドな展開力を重視し、高度なポゼッションラグビーが実践されたことを示しています。早稲田が後半に意図して10シェイプを増やしたことも、この傾向を裏付けています。

2. 安定したセットピースと決定力

  • セットピースの安定性: 両チームとも、安定したセットピースがこの試合のハイテンポな展開を支えました。特に早稲田は、ラインアウトは13/14という高い成功率で攻撃起点を確保。これは、HO清水選手の4トライに繋がったモールや、緻密なサインプレーの基盤となり、今後の大学選手権でこの安定性をキープできるかが鍵となります。
  • 早稲田の決定力とスコアバランス: 早稲田は22メートル決定率も58%と好調でした。ミスして取りきれない場面もありましたが、すぐさま侵入しスコアまで持っていける力は健在であり、モールの強さ、ポゼッションからの連続攻撃、そしてスクラムでの優位性と、様々なスコアバランスを持っていることは、大きな脅威をなっていました。
  • 慶應義塾のスコア力: 慶應義塾に関しても、モールやラインアウト起点でスコアへ繋げるシーンがあり、スコア力は十分上位校に劣らないことが分かりました。これは、慶應のFWの強さと、セットプレー周りのサインプレーの精度が高いことを示しています。

3. キックゲームの展開

この試合は、キックが少なかったため、ボールがよく動き互いのポゼッションラグビーがかいまみえた試合展開となりました。

  • 早稲田のポゼッション重視: 早稲田はハイパントを使わず最低限のロングキックに留め、中盤からポゼッションを重視する戦略を採用しました。
  • 慶應義塾の戦術的キック: 慶應は自陣深くはロングキックを使いながらも、中盤はアタックが詰まったところでオープンハイパント、ボックスハイパントを使い分けプレッシャーをかけていたことが分かります。これは、早稲田のポゼッションアタックに対する、「陣地回復」「プレッシャー」を狙った緻密な駆け引きであり、キックの意図が明確な質の高いゲームとなりました。

まとめ:戦術の差異が結んだ大差と大学選手権への課題

この日の早慶戦、最終スコア49-21という結果は、早稲田の「1421」ポッドに代表される多角的なアタックシェイプと、それを可能にした超速のブレイクダウンが、慶應義塾の「1331」を軸とした継続アタック粘り強いディフェンスを上回ったことを示しました。

早稲田は、HO清水選手の4トライに象徴されるセットプレーからの決定力と、福島選手の突出した突破力、そして野中健吾主将のリーダーシップが融合し、対抗戦首位にふさわしい総合力を証明しました。データからも裏付けられたバックラインへの多様な供給安定したセットピースは、早稲田の強固な基盤を示しています。今後の戦いに注目です。

慶應義塾も、戦術的な準備と個々のフィジカルの強さを見せつけましたが、ブレイクダウンのスピードという現代ラグビーの生命線で早稲田に一日の長がありました。しかし、モールやラインアウトからスコアに繋げる力は上位校に劣らず、大学選手権に向けた大きな自信となるはずです。

伝統の一戦で得た経験と課題を糧に、両チームとも大学日本一を目指す最終調整へと進んでいくことになります。この激闘が、今後の大学ラグビー界の行方を占う重要な一戦であったことは間違いありません。

では。

(文:山本陽平)

YOHEI YAMAMOTO
YOHEI YAMAMOTO

2000年生まれ、神戸市出身。高校からラグビーを始め、大学まで選手としてプレー。学生時代にはリーグワンチームのインターンアナリストとして現場を経験。現在は大学・高校チーム向けに試合分析や講習会、コーチングを行う「RugbyAnalyzer」を立ち上げる。ラグビーの発展と学生育成への情熱を絶やさない。