【マッチレビュー】2025ウェールズ代表対アルゼンチン代表レビュー

みなさんこんにちは
秋が通り過ぎようとしている今日この頃、いかがお過ごしでしょうか
今回は、今週末(日本時間11/16)に行われる日本代表対ウェールズ代表の試合に向けて、ウェールズ代表対アルゼンチンの試合を確認してショートプレビューを書くことにしました
それでは見ていきましょう
ウェールズのアタック様相
<主なアタック構造>
ウェールズのアタック構造は、おそらく1−3−3−1、中盤のFWによるポッドにそれぞれ三人のFWを配置する形です
CTBがポッドロールをこなすことは基本的にはなく、純粋にFWのみのポッドが形成されていました
1−3−3−1を基本とするアタック構造の方向性は、原則として外方向での数的優位を作ることを目的としています
中盤で何度か9シェイプをベースとしたFW戦でラックを作り、グラウンドの半分ほどの幅を使って人数をかけてアタックをしていました
ただ、その基本構造の中で、ポッドの人数は変化します
1−3−3−1の構造から、2つ目の3人ポッドを2人のポッドと1人のランナーに変化させる1−3−2−1−1、または1−3−1−2−1という形をとっていました
この構造変化のタイミングはエッジから1つ目のポッドで接点が生まれた後のフェイズで、残った2つ目の3人ポッドから1人の選手が離脱してリードランナー、プレイメーカーの前でダミーのランナーとして走り込み、残りの2人が主にCTBの前に立つブロッカーとして役割を持っていました
そのため、基本的には外方向にチャンスメイクをする傾向にあり、2つ目の3人ポッドを分割して分けた1人-2人のFWは、原則としてボールを受けない形をとっています
あくまでもブロッカーとして用いられ、その裏のラインはシンプルな単線構造をとっていました
ただ、この構造がチャンスを完全に構築していたかというと、必ずしもそういうわけではありませんでした
なぜかというと、数的に余っている人数が多くないこと、またアルゼンチン側の外側のカバーが比較的早く回り込んでいたことが理由として挙げられます
<構造の注意点>
近年のラグビー界では、スイングと呼ばれるアタックプレーが多く見られるようになってきました
スイングとは、逆サイドやラックの裏、または各選手の裏側から順目方向に回り込むことで後出しで数的優位性を作り出す動きです
後出しで人数を増やすことによってノミネートがブレたり、外側に大きな数的優位を作ることもできます
ウェールズは、このスイング、またはそれに類する動きが少なく、あくまでもそのタイミングでそのサイドにいた選手でアタックラインを構築していました
そのため、数的に多くの余裕を外側に作ることができず、軽いスライドディフェンスでも十分に対応可能な状態になっていました
ブラインドサイド、ラックから見て狭い方のサイドではエッジでキャリーした選手たちがそのままストレートに下がってきており、形としてはピストンアタックなどの攻略方法もあったとは思います
ただ、ウェールズはその選択は取らず、広いサイドで一定の数的優位に反応してアタックラインを構築していたので、なかなか相手ディフェンスを偏らせることはできていませんでした
<キックオプション>
キックオプションはなくはないのですが、中央に近いエリアからエッジ方向に蹴り込んだハイパントでは相手に獲得されてトライまで持ち込まれたりと、必ずしもいい方向に試合を動かすことはできていなかったように見えました
9番のトモス・ウィリアムズなど、キックに優れた選手もいましたが、動的な状況の中で停滞を打開できるほどのキックはなく、うまくいかないか単なる脱出に留まるかの二択で揺れていました
<キーマンとキープレー>
9番トモス・ウィリアムズはアタックでも重要な役割を占めており、自身で少し持ち出して味方選手を呼び込んだり、そのまま自身で持ち込むことによるゲインを見せていました
特にゴールに近くなってくるとウィリアムズを柱として接点勝負に持ち込んでおり、打点をパスや持ち出しで切り替えることで効果的なアタックを見せていました
ゴール前でのピックゴー、または中盤からの選手の判断による持ち出しはウェールズのアタックの脅威の中核を占めるプレイングであり、ゴール前まで来ることができれば高い確率でスコアまで繋げることができていました
ピックゴーや9シェイプなどで徐々に押し込み、押し広げたスペースに向かって素早くさらにピックゴーを重ねることで、小さいながらも着実にゲインを切ることができ、その動きは特にゴール前で本領を発揮していました
ウェールズのディフェンス様相
<主なディフェンス様相>
ウェールズのディフェンスは、近年の各国のトレンドに比べると、そこまで前にラッシュを仕掛けてくるようなディフェンスではありませんでした
おそらく数m前進してコントロールする傾向にあり、コンタクトのシーンでは前方向のベクトルはあまり感じられませんでした
結果として、アルゼンチンの強力なFWによるキャリーに押し込まれることにつながります
中盤をはじめとする多くのエリアで、サポートをつけながら接点を作るアルゼンチンのキャリーに対して、押し返すことができたシーンは少なく、なかなかゲインラインを下げられない状況が続いていました
押し込まれがちになることの弊害として、より一層前に出ることができないという負のループも見られていました
相手のキャリーに差し込まれることによって、ラックを挟んで逆方向に回り込んで人数を調整する動き、フォールディングなどの動きが大きく下がることとなり、相手のボールアウトに対して素早く反応することが難しくなっていました
<数的劣位への対応>
また、数的優位を簡単に作られていたことも確認できています
特にエッジ、15mラインよりも外側のエリアにおいて最終的に2対1を作られてバックスリーに大きく前に出られ、キックやパスを使ってトライまで完結される、というシーンも多く見られました
この要因としては、先ほど挙げた「接点で前に出られる」という要素のほかに、ブラインドサイドに人数が余っている、という要因が考えられます
アルゼンチン側がブラインドサイドに残している人数よりもウェールズ側が残している人数が多く、数的優位を作られている形です
ブラインドサイドに人数が残っている要因として、人数ベースではなく比率ベースでディフェンスラインを作っていることが想像できます
人数ベースというのは、相手の人数に合わせてラックに対して両サイドの人数をコントロールする形で、比率ベースというのはグラウンドに対して等間隔に選手を並べることでエリアをカバーするという形です
ウェールズのディフェンスは、見ていると比率ベースであるように見えることが多く、アルゼンチン側がオープンサイドに人数を割いているときであってもブラインドサイドに残っている形が多く見られていました
接点で前に出られてしまうということもこの傾向に拍車をかけており、接点に人数をかけなければいけない状態が多くなりました
その結果、順目方向の選手が接点に参加したりすることで順目方向の人数が減り、その減った人数に対して補充としてフォールディングする選手が不足することで、順目方向により一層の数的優位を作られていました
<キックへの対応>
キック処理の場面では、ハイボールへの対応に苦慮していた様子が見受けられました
ボックスキックやハイパントを再獲得され、キック主体のゲインを獲得されることにつながっていました
この現象の要因として、FBに入ったブレア・マレーの小柄な体格が影響していることが考えられます
マレーは身体能力が高い選手ですが、身長は173cmと小柄で、ハイボールの競り合いの部分で相手に上を取られるシーンが目立っていました
対面に入ったサンティアゴ・カレーラスも、極端には大きくないものと183cmと身長でマレーを上回り、ジャンプ力で制空権を押さえていました
ウェールズのスタッツ
テリトリーは46%、ポゼッションは47%と、アルゼンチンに一定水準上回れる結果になりました
特に大きく差をつけられた状態で迎えたラスト10分間ではポゼッションは37%と、終盤は少し切れてしまったような数値を示しています
敵陣22m内への侵入回数は6回と、14回のアルゼンチンに対して大きく差をつけられる結果となりました
しかし、侵入回数あたりのスコアを見ると、ウェールズが4.6、アルゼンチンが3.7と順序が逆転する結果になっています
ここまで述べた内容やこの後触れる内容につなげると、ウェールズはゴール前に行くことができれば高い水準でスコアを獲得することができると言えます
しかし、戦術的に敵陣22mに入った回数が少ないからこそ、この結果になりました
同じ比率で侵入回数がアルゼンチンと同水準であれば、単純計算で64点ほどスコアすることができていた計算になります
ポゼッションの中でベーシックスタッツを見ると、キャリーは134回、パスは183回、キックは26回という数値を示しました
キャリーに対するパスの比率は1.36と少しキャリー優位の数値でした
つまり、パスを重ねることなくキャリーに持ち込むことが多いということであり、接点から試合を作ろうとした傾向を示しています
また、キックに対するキャリーの比率は5.15と、約5回のキャリーが起きるごとにキックをしていると言えます
ちなみに日本はアイルランド戦でちょうど5という数値をとっているため、日本と同水準でキックをしているということもできるでしょう
一方でラインブレイクはアルゼンチンの14回に対して6回と控えめな数値を取り、ブレイクを生み出すことはできていませんでした
ポストコンタクトメーターも100m以上上回られており、構造的にも物理的にも相手により前に出られていたと言えます
ターンオーバーを見ると、獲得は7回と悪くない数値で、失った回数も14回と相手より少ない数値を示していました
ただ、それでも勝てないというのが実情であり、ターンオーバーをした後のムーブや、失った後のムーブに課題が残っている可能性もあります
まとめ
ウェールズは、スコア効率やターンオーバーというスタッツでアルゼンチンを上回る成果を見せたものの、アタックの停滞やディフェンスの精度で後手に回る結果になりました
日本代表としては、勝利は十分に射程圏内であると考えられます
ウェールズ代表を自陣深くに入れず、中盤で試合を動かすことができれば、ウェールズはブレイクスル手段が少ないために大きく前進される可能性も低減することができます
ただ、逆に言えばペナルティが嵩んで自陣深くに入られたり、接点で前に出られてリズムを掴まれたりすると、効率のいいアタックでスコアに繋げられることも考えられます
日本代表にとっては年末のバンド分けに向けて絶対に落とすことができない一線でもあるので、注目していきましょう
1994年生まれ、東京出身。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、Webマガジン「Just Rugby」にて分析記事を連載中。