【マッチレビュー】2025大学ラグビー関西リーグ:同志社大学対関西学院大学

熱戦を制した関学の「計画性」と、同志社の「修正力」が光る伝統の一戦
関西ラグビーリーグの注目カード、同志社大学と関西学院大学の対決は、シーズン序盤にして早くも白熱の攻防となりました。共に初戦を白星で飾り、勢いに乗る両雄のぶつかりは、昨シーズンの順位を巡る因縁も相まって、大きな山場となることは間違いありませんでした。
同志社大学は、本来ゲームメーカーであるSO(スタンドオフ)やFB(フルバック)を務めることが多いキャプテンの大島泰真選手を、あえて14番ウイングに起用。これは、試合中に彼を本来のSOの位置に移動させ、そこを起点とした流動的な移動攻撃を仕掛けるという、相手の予測を裏切る明確な戦術的工夫でした。
対する関西学院大学も、高校代表経験を持つ武藤航生選手、中俊一朗選手といった強力なアタッカーをバックスに要し、持ち味であるバックス陣の展開力に磨きをかけてきました。
◆試合展開:関学の「理想」と同志社の「苦闘」
試合の主導権を握ったのは関西学院大学でした。彼らは持ち味であるバックス陣の展開力と、FWのモールを効果的に組み合わせ、敵陣に入れば確実にスコアを取り、理想的な試合展開を作り上げました。ディフェンス面でも、激しく前にラインを押し上げるハイプレッシャーをかけ続け、同志社の攻撃リズムを寸断しました。
一方の同志社大学は、大島選手がプラン通りSOの位置に入りながら、移動攻撃で活路を見出そうと試みましたが、関学の激しいディフェンスの前に苦しみます。ボールを持つ機会は関学と遜色ありませんでしたが、ディフェンスの圧力からボールを前に運べない時間帯が続きました。自らのボールロストやペナルティーを犯す場面が重なり、リズムに乗れず、試合は終始関西学院のペースで進みました。
試合は終盤まで関西学院がリードを保ち、スコア力の差が明確に表れる形となりました。しかし、同志社も粘りを見せます。後半ラスト10分にアタックを修正し、立て続けにトライを奪う修正力と地力を見せつけました。この猛追は今後に向けて大きな期待を抱かせるものでしたが、前半の失点が響き、結果は21-34で関西学院大学が勝利を収めました。このスコアは、両チームが持つポテンシャルの高さを感じさせると同時に、中盤の規律と決定力が勝敗を分ける鍵となったと感じます。
この試合から見えてきた両チームの強みと課題を、詳細に分析します。
◆同志社大学:司令塔・大島の配置転換に見る「工夫」とアタックの「修正力」
同志社大学はキャプテンの大島泰真選手を、通常SOやFBが多い中この試合では14番ウイングで起用するという意外性のある布陣で臨みました。これは、彼が本来の司令塔であるスタンドオフ(SO)の位置に移動しながら攻撃を組み立てる、柔軟な移動攻撃を軸とする狙いがあったと見られます。
苦しんだ前半:関学のハイプレッシャーに沈黙したアタック
しかし、前半は関西学院大学の激しいラッシュアップディフェンスの前に、同志社のアタックは大きな苦戦を強いられました。
特に課題となったのは、セットプレーからのファーストアタックでした。ゲインラインを突破できず、厳しいディフェンスのプレッシャーからターンオーバーを招く場面が続出しました。目指していたショートサイドや逆目への移動攻撃、大島選手やFB上嶋友也選手が絡んで相手FWとのミスマッチを狙うプランは、その手前でボールを供給できずに頓挫してしまいました。
グラウンドワークやサポートのつき方にも課題が見られ、ラックに人を割きすぎることで、次以降のアタックに厚みが欠け、さらにプレッシャーを受けやすい悪循環に陥ったと言えます。FW陣はスクラムでペナルティーを獲得するなど推進力を見せていましたが、細かな連携と立ち位置の修正が急務となりました。
驚異の後半ラスト10分:スタイル激変が生んだブレイク
それでも、同志社大学の真骨頂は後半ラスト10分に発揮されます。関西学院のディフェンススタイルに対し、それまでの広く深いアタックラインから大きく戦術を転換しました。
- 立ち位置の変更: ディフェンスに詰め切られる前にボールを繋ぐため、狭く深いアタックラインを構え直しました。
- 仕掛けの焦点化: ゲインラインへ接近し、トイメン(真正面の相手)へのコミットを誘いながら、ギリギリで裏のキャリアーに繋ぎ、ディフェンスとディフェンスのギャップを突くことに成功。
- 攻撃の柔軟性: 10シェイプ(SO周辺)中心にボールを散らしつつ、FWがキャリー後にすぐ起き上がって再度前進する「ピック&ゴー」などを織り交ぜ、相手ディフェンスラインを効果的に下げました。
この修正力と工夫された仕掛けは見事の一言で、立て続けにトライを奪う地力を見せつけました。最終スコアでは及びませんでしたが、この猛攻は次戦以降への大きな希望となるでしょう。
ディフェンス:高い個の能力と規律の乱れ
ディフェンス面では、個々のタックル精度と強度は高いレベルにありました。HO荒川駿選手のジャッカル、LO林慶音選手のカウンターラックなど、要所でのターンオーバーも光りました。しかし、ディフェンス時のペナルティーが重なり、自陣深くでの厳しい展開を招きました。特にモール起点やキックカウンター後のアンストラクチャーな状況で後手に回ることが多く、ディフェンスラインを整える前に攻め込まれる展開が続きました。
ポイントとして、アンストラクチャー後のエッジ(フィールドのサイドラインに近い部分)で、相手のラックに対してもう一歩踏み込んだプレッシャーをかけ、相手の攻撃テンポをわずかにでもずらすことができていれば、試合の流れは変わっていたかもしれません。これにより、ディフェンスラインがリロード(再配置)する時間を確保し、次のフェーズでのプレッシャーを強めることが可能になります。
◆関西学院大学:柔軟なポッドシステムとハイレベルな「計画性」
勝利を収めた関西学院大学は、「柔軟性と計画性に富んだ」非常にバランスの取れたアタックを展開しました。彼らの攻撃は、個人の能力に依存するのではなく、チームとしての完成度の高さを感じさせるものでした。
アタック:多彩なシェイプとアンストラクチャーの脅威
関西学院のFWは、No.8小林典大選手を中心に接点での圧力を意識的に高めており、モールやシンプルな9シェイプから確実にゲインを重ねました。
特筆すべきは、ポッドシステム(FWの集団配置)の柔軟性です。基本の1-3-3-1を軸にしながらも、状況に応じて3-3-2や1-4-2-1へと変化させ、相手ディフェンスの的を絞らせませんでした。
最大の強みは、ターンオーバー後のアンストラクチャーアタックです。ブレイクダウンに強いFWをエッジ(外側)に配置することが多い中、関学はエッジにボールを運んだ際にバックスのみでクイックにボールをリサイクルできる点で優位性を発揮しました。これにより、テンポを落とさずに攻撃を継続し、相手がディフェンスラインを整える前に仕留めることが可能となっていました。
SO阪井優昇選手を中心とした10シェイプから、CTB下元大誠選手へ繋ぎ、バックスラインへ展開する形も確立されており、計画性の高さが伺えました。
ゴール前では、FWが9シェイプを中心にゴールラインへ垂直に仕掛けつつ、そのFWを飛ばして中選手や下元選手が仕掛け、裏の阪井選手へ繋ぐスイベルパスのシークエンスは、ハイレベルなボール捌きとプレッシャー下でのパスワークの賜物でした。さらに、後半には下元選手がSOに入り縦に仕掛けるなど、複数人がファーストレシーバーになれる強みも披露しました。
ディフェンス:激しいラッシュと組織力
ディフェンスは、代名詞とも言える激しいラッシュアップディフェンスが終始機能しました。ボールキャリアーに対して鋭く、膝下に刺さるような低いタックルを徹底し、同志社の勢いを寸断しています。アタックラインの裏に控えるSOに対しても外側から詰めてプレッシャーをかけ、組織的ディフェンスのレベルの高さを見せつけました。
PR大塚壮二郎選手のタックル後のリアクションからそのままラックを超えてターンオーバーを起こすなど、接点での高い意識も光りました。終盤は同志社の猛攻でブレイクを許す場面もありましたが、裏のバックス陣が高いタックル精度でフォローし、一気にトライを許さない粘り強さも持ち合わせていました。
◆データで見る勝敗の分岐点:鍵は「22m決定率」と「規律」
この試合の勝敗を分けたポイントは、詳細なデータからも明らかになりました。


最大のポイントは、同志社と関西学院が同水準の11回、12回の敵陣22m侵入回数がありながら、トライまで取り切る決定率に大きな差が出た点です。
また、敵陣22m侵入のきっかけとして、関西学院がペナルティー獲得による侵入が多かったことは、中盤での規律の差がそのままスコアに直結したことを示しています。関西学院の激しいディフェンスによって同志社がペナルティーを誘発され、効果的に敵陣に侵入されてしまいました。
関西学院は、中盤でのキック戦術としてハイパントを積極的に用いていました。これは単にエリアを稼ぐためだけでなく、キック後のチェイスと空中戦の優位性を活かして、ラックでのプレッシャーからターンオーバーを引き起こすという明確な狙いがありました。実際、この積極的なハイパントはいくつかの場面で機能し、同志社のストラクチャー攻撃を出させないという意味でも、有効な戦術であったと言えます。
また、意図的にロングキックでタッチラインの外に蹴り出さず、インフィールドに残すことも狙っていました。これは、同志社をフィールド内で受け身のディフェンスに追い込み、関西学院が得意とするアンストラクチャーな状況、つまりディフェンスラインが整っていない状況を作り出す勝機を見ていたためだと推察されます。
アタックシェイプ(攻撃の形)の面では、関西学院は比較的ワイドな展開を中心としており、10シェイプ(スタンドオフを軸とした攻撃)とバックスラインでの展開が攻撃の主軸となっていました。これは、彼らの誇るバックス陣の展開力とランニングスキルを最大限に活かすための設計図でした。
対してセットプレー、特にスクラムやラインアウトの安定性は、この試合では同志社大学が大きく上回っており、同志社にとって数少ない有効な攻撃の起点となっていました。データ上、同志社はラインアウトからのサインプレーやスクラムでのペナルティー獲得などで優位に立っていたと言えます。
この安定したセットプレーを活かすため、同志社大学としては、ゴール前付近でラインアウトをより多く発生させることができていれば、FW主導の強力なアタックやモールからのスコアチャンスがさらに増え、得点差を詰めることが可能だったと見えます。セットプレーで得た優位性を、いかに敵陣深くでの攻撃に繋げられるかが、今後の同志社の課題となるでしょう。
さらに、アタックの終わり方を見ると、同志社が10回のターンオーバーで攻撃を終えたのに対し、関西学院はわずか3回。これは関学のディフェンス精度の高さだけでなく、ボールロストを避けてキックで攻撃を終えるといったマネジメント能力の差も大きく影響したと言えます。
◆まとめ:両雄が示した「進化」と今後の期待
同志社大学は、キャプテン大島選手を中心とした新しいアタックの形を模索しており、後半に見せた驚異的な修正力は彼らの高いポテンシャルを証明しました。今後は、前半のアタックの精度と、ディフェンス時の規律を整えることが鍵となるでしょう。
一方、関西学院大学は、柔軟で計画的なアタックと、高い組織力を持つディフェンスを披露し、総合力の高さで勝利を掴み取りました。特にアンストラクチャーアタックにおける完成度の高さは、今シーズンの大きな武器となりそうです。今後は、ミドルゾーンでテンポが遅れた際の攻撃のバリエーションがどう進化していくのかに注目が集まります。
この伝統の一戦は、両チームが更なる進化を遂げていることを示しました。関西ラグビーリーグの行方を占う上で、非常に重要な一戦であったことは間違いありません。
では。
2000年生まれ、神戸市出身。高校からラグビーを始め、大学まで選手としてプレー。学生時代にはリーグワンチームのインターンアナリストとして現場を経験。現在は大学・高校チーム向けに試合分析や講習会、コーチングを行う「RugbyAnalyzer」を立ち上げる。ラグビーの発展と学生育成への情熱を絶やさない。