【マッチレビュー】2025高校ラグビー花園決勝:京都成章高校対桐蔭学園高校

「構造とデザインのぶつかり合う、戦略の最前線」
みなさんこんにちは
今年も高校生による熱戦が終わりました
1/7に行われた高校ラグビーの最高峰、花園の決勝は、3連覇を狙った桐蔭学園高校が36対15という得点で京都成章高校を破り、3連覇を果たすという大会の終わりとなりました
この接点の強度をシステムとして強みにすることで相手を打ち破ってきた、「構造化されたラグビー」得意とする桐蔭学園。緻密に練り上げられたサインプレーで強敵を破ってきた「デザイン化されたラグビー」を得意とする京都成章。
今回は彼らのラグビーがどういった駆け引きのもとで行われ、そして何が勝敗を分けたのかについて見ていこうと思います。
桐蔭学園のラグビー
<ポッド戦略>
桐蔭学園のアタックは1-3-3-1をベースにして、そこから大きくポッドの配置を切り替えることなく終始した戦略をとっていました。中央付近で3人ポッドを作ることでラックを安定化させ、アタック全体をリズムよく運ぼうとする狙いが感じられます。
9シェイプに関しては、一般的な三角形のポッドとステアポッドを使い分けるような形で活用しており、9シェイプから裏にパスを通すようなシーンは少なく見受けられました。その代わりに、アタックを展開する時は10を起点に一気に動かすような形で、その時はポッドを経由することなく素早くボールを動かしていました。
また、この3人ポッドの多くにはBKの選手が参加していることもありました。特定の選手が何度も参加しているというよりも、さまざまなBKの選手がバランスよく、近くにいる選手へのサポートという形でラックを形成していました。
そのため極端な話で言えば、3-3-3-3のように、3人組のポッドが数多く並んでいるシーンも見られていました。グラウンドを縦方向にレーンに分けることで各ポッドの参加位置を大まかに固定し、ポッドでラックを作った選手がそのまままっすぐ下がることで、不要な移動をせずにアタックラインを構成している様子が見られました。
3人ポッドは必ずしも熱心に順目方向に回り込むような動きは見せず、サポートに回るというよりは、次のポジショニングをする準備をしているような様子でした。
9シェイプではこのような傾向がありましたが、10シェイプは少し流動的な形で、決められた3人組のポッドだけではなく、流れの中で近くの選手たちが、3人1組にまとまってポッドとしてラックを完結させるようなシーンも見られていました。
<キーになった接点>
桐蔭学園のアタックのキーになったのは、何よりもその「粘り」です。どの選手もタックルによって一発で倒されることがなく、数歩の間粘って立ち続けることで、サポートの選手が体を寄せてハンマーに入ることで、さらに前に出ることに成功していました。
また、一人一人が粘ることによって、サポートの選手が少し遅れても相手にボールに絡まれたりすることなく、安定してラックを作ることができていました。キャリアーとなった選手の体の使い方も上手く、上手く体を捻って相手の圧力をいなすことで、タックルを受けた後でも相手をずらして前に出ることに成功していました。
そのため、9シェイプの多くで前に出ることができ、無理にパスを重ねて展開をしなくても、(ミスがない限り)連続して前に出ることができるという状況を作っていました。アタック自体は非常にシンプルでしたが、接点の強さが担保されており、シンプルな構造ながら前に出ることに成功していました。
接点の観点で効果的だったのは、ピックゴーでのキャリーも挙げられます。単純に接点が強いので、ボールを下げずにキャリーができるピックゴーとの相性が非常によく、ゴール前といったディフェンスが非常に堅くなるようなシーンでも、高い確率で前進を果たし、連続攻撃でトライを奪っていました。
誰かがラインブレイクをして大きく前に出た後も、ピックゴーが効果を強力に発揮します。桐蔭学園の選手は判断が非常に良いため、ラインブレイクしたことでラックの近くに相手選手が薄いと見るや否や、素早くピックゴーの持ち込んで、モメンタムを殺すことなくキャリーをすることができていました。
また、このピックゴーが一つの選択肢となって相手を惑わし、ビッグゲインの後に相手がラック際を固めてきた場合、素早くサポートに入った選手が持ち出すふりをしながら大きく展開をすることで、スペースを効果的に攻略することができていました。
<キックとエリア戦略>
桐蔭学園と京都成章の試合では、高いレベルでのキックの蹴り合いを見ることができました。後述するようにポゼッション回数が多くなるということは、キックポゼッション、つまりキックの蹴り合いで一時的に保持するポゼッションが多かったということが推測できます。
桐蔭学園は、Bゾーンに入ればある程度こだわって連続したアタックを狙いますが、中盤では効果的にボックスキックを蹴るフェイズも見られています。再獲得を狙いながらプレッシャーをかけ、相手のミスを誘ったり、エリア自体を押し込むことに成功していました。
ロングキックによるエリアの取り合いの観点から見ても、桐蔭学園のキックはしっかりと距離が出るため、エリア的に押し込まれずにタッチに蹴り出すことができます。相手のキックが自陣22m内に入っても、丁寧に蹴り出すことによって、エリア的にイーブンとなるハーフライン近くまで蹴り出すことができていました。
キックの観点で言うと、見逃すことができないのが後半20分に生まれたドロップゴールです。リズム自体がよく、そのままアタックをしてもスコアをすることができそうな状況でしたが、桐蔭学園は、ここでドロップゴールを狙ってきました。
このキックの狙いは確実には読めませんが、10対26という点差の状態における、スコアによる精神的プレッシャーをかけることを目的としていたことが予想できます。
京都成章は、準決勝の東福岡戦でも、緻密に練られたサインプレーを用いて一発でトライを取ることを得意としていました。つまり、短いポゼッションで、スコアをすることができるチームであるということです。
残り時間は10分+ロスタイムとなっていましたが、それくらいの時間があれば、京都成章は十分に得点差をひっくり返すだけの実力があったでしょう。しかし、ここでドロップゴールを決めて19点差にすることで、点数で圧力をかけるとともに、アウトオブプレーにすることで時間をさらに消費することもできていました。
京都成章のラグビー
<ポッド傾向>
京都成章のポッドは少し特徴的で、特別なサインプレーをするときの特殊な人数比もありますが、基本的には4人ポッドを2つ並べることを好んでいます。
4人ポッドを一度当てこみ、その次のフェイズで別の4人ポッドを当て、さらに次のフェイズでは最初の4人ポッドを当てるという、ピストンアタックと呼ばれるような動きを、グラウンドの中央で多く行っています。
これは、4人ポッドという密度の高いポッドを中央で使うことでディフェンスを寄せ、外方向に数的優位を作ってから一気に展開するという形をゴールとしています。4人ポッドに対してディフェンスが薄いと、4人ポッドの面としての強さで前に出やすくなるため、ディフェンスとしてはある程度人数を割かざるを得ません。
また、ある程度一定のリズムであると意識させた状態から、4人ポッドの3人目にパスをだし、そこからスイベルパスで裏に立つプレイメーカーにボールを供給する形も見られていました。残る1人はブロッカーとなって囮となったり、少し遅れて走り始めることで、プレイメーカーからのパスオプションになったりしていました。
<特徴的なサインプレー>
京都成章の強みは、練り上げられたサインプレーによる一発でトライまで持ち込むことのできる爆発力です。今回の試合でも、いくつかのサインプレーが見られました。
特に強力なのが12-13のCTB陣から裏に回り込む10番の岡元聡志へのスイベルパスで、外方向に一気に振り切り、最後は走力のあるWTBが走り切るといった形です。
12番の森岡悠良と13番髙萩誠人は個人としても突破力がある選手であり、桐蔭学園側としては、ディフェンスを切れない相手です。その2人がしっかりと相手を寄せることによって、外に膨らみながらボールを受ける岡元が、相手を振り切って外に移動できていました。
また、特徴的な動きとしては、バックスライン全体がスイングする「ロングスイング」によって一気に数的優位を作り出し、安定化させたラックから大きく動かすことによって、最後は外で相手を振り切るという形を作っていました。
<ディフェンス傾向>
京都成章のディフェンスは、「ピラニアタックル」と呼ばれるほど精度が高く強力で、鋭く低くタックルに入ることで、相手の動きを封じ込めることに長けています。桐蔭学園が武器としていた9シェイプでのキャリーに対しても、ある程度の精度でタックルで止めることができており、苦戦はしていましたが、いいタックルの様相を見せていました。
バックスラインのような選手間の距離が広いようなシーンにおいても、しっかりとダブルタックルで止めることができています。その後、ブレイクダウンへのプレッシャーでターンオーバーしたりと、堅いディフェンスから相手ボールを奪うまでの一連のフローがしっかりと整備されていました。
しかし、苦戦した要因として、桐蔭学園のキャリアーの粘りがあります。相手が簡単に倒されずにサポートをつけながら徐々に前に出てくるため、ディフェンスは細かいポジショニングの調整をする必要が出てきます。ポジショニングの調整をしている間にも桐蔭学園がアタックを開始しているため、ディフェンスがで遅れるシーンが見られていました。
また、全体が揃って上がるディフェンスがベースにある分、誰かがズレて突出してしまうとオフロードパスなどですれ違われるといったリスクも露呈していました。前に出る勢いがある分すれ違われるとカバーが遅れてしまうことも多く、一度それで大きなゲインを許していました。
<勝負を決定づけたシーン>
勝負を決定づけた要因としては、攻守ともにキックに関連した要素だったと言えるでしょう。
まず、キックオフレシーブを安定して確保することができず、失ったポゼッションがあります。基本的にキックオフを蹴り込まれるときは最初のキックオフ、またはスコアをした後の相手のキックオフであり、本来であれば安定して獲得して、脱出することでエリア的にイーブンに持ち込みたいところです。しかし、キックオフでのミスが数度あり、ポゼッションを桐蔭学園に譲る結果となっていました。
また蹴り込んだ、または蹴り込まれたパント系のキックに対して、安定して確保することができなかったことの影響も考えられます。京都成章から蹴り込むキックでは相手にプレッシャーをかけ切れず、タックルはできてもミスが誘えないような状態になっていました。
最後に決定的だったのは、相手のトライにつながった2回のキックチャージです。こればかりは運の要素もあるかとは思いますが、安定した脱出をもたらすはずのキックが一転して相手のスコアにつながってしまい、スコアボード上でも精神的にも動きが大きかったように思います。その後のキックの蹴り合いでもボールデッドになってしまうなど、ミスキックが重なっていました。
ゲームスタッツを確認する
それでは、スタッツを確認していきたいと思います
まずは京都成章のものからです

気になるのは圧倒的に相手に上回られたポゼッションです。45%程度であれば上回れていてもいい試合に繋げることができますが、今回の試合では京都成章のポゼッションは34.1%にとどまりました。ポゼッション回数自体はそこまで少なくはないですが、一つ一つのポゼッションの時間が短い、つまりキックがアウトカムになるポゼッションが多かったことが予想されます。
ここまでポゼッションに差があると、いくら京都成章が短い時間で一気にトライを取ることができるチームといえど苦しい試合展開になることは簡単に想像できます。ポゼッションが少ないと敵陣でのプレー時間も減り、チャンスが少なくなるからです。
キャリーとパスの比率を見ると、全体的に少しキャリー優位の試合展開であったことがわかります。パス回数が少なく、9シェイプをベースにアタックをしていたことが想像できます。東福岡戦ではもう少しパスの比率が大きかったので、苦戦したのか狙ってか、キャリーに重きが置かれたラグビーであったことがわかります。
キャリーとキックの比率を見ても、東福岡戦からさらに小さい数となり、キックを多く用いていることがわかります。東福岡戦の時点でもかなり戦略的にキックを用いていましたが、今回の試合ではキックゲームによるエリアの取り合いの様相が強く、キックの割合が増えていました。
また、ラインブレイクに比率は極めて低い数値となっています。東福岡戦での数値と比べると、倍以上のコスト、キャリーを必要としていることがわかります。特殊なサインも今回の試合ではそこまで目立っては見られず、シンプルな勝負の土俵に乗っていたかもしれません
次に、桐蔭学園のものを見ていきましょう。

桐蔭学園の決勝、ひいては準決勝の試合展開からわかることは「圧倒的なボール保持率」です。これ以上は遡ることができませんが、少なくともこの2試合に関しては圧倒的なポゼッション保持率を見せています。
しかし、大阪桐蔭にはサインプレーで一発で取られて苦戦したりと、相手にポゼッションを与えなくても敗れることになるリスクというのも認識していたかもしれません。その結果として、キーになったドロップゴールの選択肢など、スコアを重視していた様子が見受けられました。
敵陣22m内への侵入効率も非常に良く、走力のあるBKによるラインブレイクや、FWの選手たちによる地道な前進によって侵入を果たしたりと、攻撃的に侵入を果たしていました。8回の侵入に対して5トライとトライ効率も高く、非常に「いいラグビー」ができていたと言えるでしょう。
キャリーに対するパスの比率はほぼ1という数値をとっており、これは極めて異例な数値であるといえます。キャリーにかなり偏った数値であり、パスを介さないピックゴーを多発していたことがこのような数値になっていた理由になることでしょう。
まとめ
桐蔭学園は組織としての強さを備えながら、個の力で前に出る、というシンプルな構造でポゼッションを支配的に進めました。その過程の中ではミスも少なく、相手に常にプレッシャーをかけ続けながら試合をコントロールしていました。
京都成章は準決勝をデザイされたプレーを駆使して勝ち上がり、決勝でも戦術的なバリエーションを豊富に見せていました。しかし、接点というラグビーの土台になる部分で相手に全身を許し、細かいプレーのミスで勝負の天秤は傾いたように見えました。
今回の試合は、京都成章の緻密にデザイン化されたラグビーを桐蔭学園の組織・個の力が上回った試合であるといえます。今年の熱戦を経験した選手たちが、来シーズンはそれぞれの場所でどのように活躍するかが、現時点でも楽しみに思えます。
1994年生まれ、東京出身。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、Webマガジン「Just Rugby」にて分析記事を連載中。